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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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「人種は存在しない」

 「人種」は,長いこと四面楚歌の状態にあった。科学者の中では遺伝学者たちが先頭に立って攻撃してきたが,その攻撃は世界じゅうの遺伝的変異のパターンを研究した2つの調査結果にもとづいている。最初の調査からわかったことは,ヒトゲノムに豊富に見られる遺伝子の多型で人間を分けると,伝統的・民族文化人類学的な人種とは一致しないということだ。どんな遺伝子にもさまざまな多型が現れる。たとえほとんどの多型が「沈黙」していて,コードするタンパク質に影響を与えないとしても多型は存在している。当然のことながら,ある多型はある特定の地域に多く見られることがある。だがほとんどの遺伝子の多型について,地域的広がり,あるいは希少性の世界的分布を見てみると,昔ながらの人種の境界線とは一致しない。人種の境界線はたいがいはっきりと引かれるが,概して遺伝子の多型の頻度はなだらかに変化している。多型の頻度の地域的な差は遺伝子ごとに異なる。だからもし人類の間に境界線を引こうとしても,ほとんどの遺伝子は境界線のどちら側に分類されるのかを簡単に示してはくれないのだ。
 2つ目の実験からわかったことは——それによって遺伝学者たちは人種それ自体を疑り出したし,いまも疑っているが——どんなに小さな集団でも遺伝的多型は見られたということだ。世界じゅうから集めた遺伝的多型の約85パーセントは,たとえばカンボジアやナイジェリアといったどんな国やどんな集団でも見られ,約8パーセントがオランダやスペインといった国ごとに見られ,残りのたった7%だけが大陸——「人種」を大雑把に解釈したもの——ごとに見られた。たしかにオランダ人とディンカ族との間には遺伝的な相違はあるが,オランダのデルフトに住むふたりの人間の間の相違とたいして変わりはない。
 遺伝的多型に関するこうした事実は,1960年代から知られていた。それ以後10年ごとに,遺伝的変異を発見・分析するより精度の高い方法を利用したより豊富なデータによって裏付けられてきた。1960年代は多型のタンパク質がゲル上を移動する様子を研究していたが,現代はゲノム全体の塩基配列を研究している。科学者たちは何十年にもわたって——本書で私がしているように——こうした結果を説明し,遺伝学的には,人種は存在しないと主張してきた。人種は実体のないものを具象化したものであり,社会的構成物であり,さもなければ信用に値しないイデオロギーの残存物だと。

アルマン・マリー・ルロワ 上野直人(監修) 築地誠子(訳) (2006). ヒトの変異:人体の遺伝的多様性について みすず書房 pp.294-296
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