レミング症候群は実のところ,非常に多く見られる。1980年代には,目ぼしい電子企業はみなPC市場に殺到した。ゼニス・エレクトロニクスのようなTVメーカー,ソニーのような日本の家電メーカー,ワング・ラボラトリーズのようなミニコンピュータのメーカー……。1984年には,PCが今後コモディティ化し,利ざやがごく小さくなることがはっきりしていたにもかかわらず,参入は続いた。
OSのサプライヤーであるマイクロソフトとCPUのサプライヤーであるインテルは,莫大な利益を得ようとしていた。しかしそれ以外の,1台のPCに何もかも組み込もうとした企業のなかで,マイクロソフトとインテルを上回るほどの技術的な躍進を遂げて巨額の金を手にしたのはIBM1社だった。アップル・コンピュータは例外で,同社が得たチャンスはIBMより小さかったが,それで十分だった。自社製コンピュータ内のテクノロジーすべてを掌握していたからだ。
他の10社ほどは,たがいに他者を押しのければ市場の支配権を得ることができると思いこみ,どの会社もなぜかアメリカ市場の20パーセントを占められると判断した。実際には,現在にいたるまで20パーセントを占める企業は現れていない。熾烈な競争を生き延びたわずかな会社にしても,やがてPC市場が黄金郷でないことを思い知ることになった。市場は巨大でも利ざやはほんのわずかで,どんなミスも恐ろしく高くつくことを,あのデルでさえ学んだのだ。
ポール・キャロル,チュンカ・ムイ 谷川 漣(訳) (2011). 7つの危険な徴候:企業はこうして壊れていく 海と月社 pp.173-174
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