事件当時,林受刑者はオウム真理教の治癒省大臣として,犯罪にかかわった信者の指紋除去手術などを行っていた。その方法は,両手の指先の皮膚をすべて剝ぎ取ってしまうという乱暴なものだった。表皮だけでなく,真皮までも切除し,筋肉を露出させてしまうのだ。そうなれば当然,指紋は採取できない。真皮そのものが削り取られているから,指の根元から指先へ皮膚が少しずつ再生されていっても,決して元と同じ指紋にはならない。だが,真皮まで剥がされたら,人は痛くて痛くて指先を使うことはできない。この手術を受けた信者は,その後数ヶ月間,物を持つときに両手のひらだけを使うなど,かなり不自由な生活を強いられたようだ。
私に言わせれば,林受刑者はあまりに法医学を知らなさすぎる。犯人を特定する証拠は指紋だけではないのだ。掌紋もある。また,「指紋消去手術」などという言葉を安易に使ってほしくない。それは「手術」でも「医療」でもない。証拠隠滅をはかった,ただの忌むべき犯罪(傷害罪)行為である。そんな林受刑者を,私は医療人として絶対に許すことができない。
上野正彦 (2010). 死体の犯罪心理学 アスキー・メディアワークス No.707-709/2162(Kindle)
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