「キレ芸」の始祖は松本人志でしょう。いらだちのあまりイーッとなった後,「僕は○○が許せないんですよ!」といったフレーズで笑いを取る。
「キレ芸」は,とても他罰的です。「自分の思う通りにならない」ということを強く言っているわけです。
松本さんは,普段からすごく細やかな神経でいろいろ人間の心理,心の綾を見つめているのだと思います。神経過敏と言ってもいいぐらいです。
「Aをしたら,Bにならないといけないのに,なんでCになんねん!」とキレる。そこには「Aをしたら,Bになるはずだ」という彼が想定した「あるべき姿」があります。それはとても細やかな神経から生み出されているのです。
また,松本さんが広めた言葉に「逆ギレ」があります。
「逆ギレ」とは,自分と他人が関わったとき,どちらがキレるべきなのか,論理的に突き詰めて考えているからこそ生まれる発想です。手続き上,そちらがキレるのはおかしいし,正当性がない。そのことを怒りながら「逆ギレか!」と言う。これはつまり「思う通りにならないさま」を笑いに転化しているわけです。
槙田雄司 (2012). 一億総ツッコミ時代 星海社 pp.47-48
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