これまで見てきたように,子どもたちは貧困状況に置かれ続けることによって身体的,知的,情緒的にハンディを負う可能性が高まります。とくに,乳幼児期に経済的な困窮状況にある家庭で過ごすことはその深刻さを増す可能性があります。乳幼児期に経済的なことを心配せずに子育てに専念できることの意義は,アメリカの研究などを俟たずとも私たちにも簡単に想像できることです。
逆に,貧困な子どもたちの発達の保障を考えるとき,家族の所得を増加させることがまず一義的に考えていかなければならない点でした。所得の増加は,家族のストレスを減らし,子どもの発達を促す遊具などの購入や,良い環境の住居で暮らす機会の増加を家族に与え,子どもたちの成長を促進することができます。
子どもたちの貧困の実態にまったく目を向けようとしないことで,結局,日本社会は大きな社会的損失を被り続けているのかもしれません。子どもたちは,貧困状況の連鎖のなかでもがき,その才能は生かされないままに,かえって発達上のさまざまな課題を背負ったまま次の世代へと,つまりは親になっていきます。
山野良一 (2008). 子どもの最貧国・日本 学力・心身・社会におよぶ諸影響 光文社 pp.256-257.
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