エジソンは「純粋で単純な発明」品の蓄音機を,わが子のように可愛がった。蓄音機は他のアイデアを発展させる過程で偶然に発見されたもので,発明以前には思いもおよばなかったたぐいの数少ない発明の一例である。エジソンの言い方によれば,蓄音機は発明ではなく発見だった。それは,自動電信機(動く紙にモールス信号を記録する装置)を研究しているときに発見されたのである。1977年,彼は回転する紙の円盤に点と線とを打ち出して記録する自動電信機の特許を取り,このアイデアを利用して電話の受信内容を記録する装置をつくろうとしていた。この実験をやっている最中に,エジソンはトンとツーの刻み目が,人間の声に似た音を再生することを見つけたのである。
電話と音響通信の仕事から,エジソンは音とその波形の研究へと乗り出した。彼はドイツの物理学者ヘルマン・ヘルムホルツの音波の研究を聞きつけ,音波の振動の跡を追うための,振動膜に棒のついた自動録音機のような装置の存在を知った。いつもメンローパークの実験室でそうだったように,自動電信の研究は,電話の中継器(増幅器)や記録器などの開発といった他のいくつかの計画と並行して進められた。電話を研究したことで,エジソンは振動板のように音波を生み出す金属や動物の膜に精通していた。針を振動膜につけて紙片をその下で走らせることによって,エジソンは自分のどなり声の音波をパラフィンを塗った紙の上に刻み込むことができた。この実験の成功によって,音波をスズ箔でおおった回転シリンダーの上に刻印することができる別の装置をつくり上げた。1つは音を刻印するためのもので,もう1つは音を再現し聴く人を驚かせるものだった。
アンドレ・ミラード 橋本毅彦(訳) (1998). エジソン発明会社の没落 朝日新聞社 pp.77-78
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