行動遺伝学を学ぶなかで,「遺伝」という概念が,私たちが素朴に使う意味と,実際に遺伝子が働くときの意味と,ずいぶん異なることもわかりました。
最も陥りやすい誤解は,遺伝が「親の特徴をそのまま子どもが受け継ぐこと」と考えてしまうことです。「知能には遺伝が関わっている」と聞くと,決まって「ああ,頭のいい子は両親もいい大学出てるもんね」というような話になってしまいます。無理もありません。「遺伝」とは「遺し伝える」と書くのですから。
しかしそれが誤解なのです。遺し伝わっているのは,親の持つ遺伝子の半分だけです。子どもには父親の半分の遺伝子と母親の半分の遺伝子,つまりまるごと伝わって来るのではありません。しかもそれが2万個以上あって,それぞれ2つのうちのどちらが受け継がれるかはババ抜きのようなものです。そして今までに一度もなかった新しい組み合わせが生まれます。
安藤寿康 (2012). 遺伝子の不都合な真実:すべての能力は遺伝である 筑摩書房 pp.78
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