ですから,「遺伝の影響があると親と同じ性質をもった子どもが生まれる」という先入観は捨てなければなりません。親の学歴が低くとも勉強のよくできる子どもが生まれる可能性も,親が有名な大学教授なのにとんでもなくできの悪い子どもが生まれる可能性も,どちらも「遺伝的」にありうるわけです(もちろん大学教授の中にもいくらでもヘンなのがいますので,そのヘンさ加減がそのまま「遺伝」している可能性もありますけど)。
相加的遺伝の効果,非相加的遺伝の効果を合わせて考えてみると,親とおなじ遺伝的素質をもった子はむしろ非常に現れにくいことを意味します。むしろ常に古今東西一度も生まれたことのない新しい個体を生み出す仕組みが遺伝子たちにはある,というほうが本質的と言えるかもしれません。ですから逆説的に「遺伝は遺伝しない」とすらいうことができるのです。
安藤寿康 (2012). 遺伝子の不都合な真実:すべての能力は遺伝である 筑摩書房 pp.82-83
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