よく用いられる「長方形の面積」の比喩をここでも紹介しておきましょう。長方形の面積は縦の辺の長さと横の辺の長さのどちらで決まるでしょう。この問いはナンセンスですね。どちらの辺の長さのほうが重要でしょう。この問いもナンセンスです。縦と横の両方で決まり,どちらも重要です。遺伝と環境の関係もそれと同じです。しかしここに横の長さは一定で,縦の長さが違う5つの長方形があるとすると,その面積の違いは縦と横のどちらで決まるでしょう(図表4−3)。この問いには意味があります。当然,縦だけで決まるといえるからです。
あなた自身のことだけ考えれば,その遺伝条件は変わりません。つまり横の長さは一定です。ですから縦の長さ,つまり環境の影響だけがあなたの変化に影響を与えていると感じる。しかし世の中にいる人たちはみんな,横の長さも違うのです。その結果として,この世の中の人たちの違いの少なからぬ部分が横の長さ(遺伝)でも説明され,どちらか一方だけではないというわけです。そしてどちらも人生に少なからぬ意味をもたらすのです。
安藤寿康 (2012). 遺伝子の不都合な真実:すべての能力は遺伝である 筑摩書房 pp.136-137
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