女子を採用し長期雇用することに対して,いまだに多くの企業は「コスト」と感じているのが,偽らざる気持ちだろう。なぜなら,女性に出産・育児による休業ブランクや,夫の転勤による異動希望・退職などがついてまわるからだ。
とすると,企業の選択肢は以下の4点になる。
1点は,これらのコストを払って採用しても,目に見えるメリットがある「女性向け産業」。マスコミや日用品メーカー・専門商社などが,これに当たるだろう。
2点目が,コストの支払いに前向き(途中休業したとしても,長期雇用する対価が大きい)な長期熟練型産業。重工業と建設インフラ業がこれに当たる。これらの企業は,採用したからには,面倒見もよく,定着率も高い。ただし,超厳選で数をしぼる。
3点目が,女性の総合職採用は控え,一般職でアシスタント的な任用を主流にする企業。ここには金融や総合商社が入る。ただし,昨今ではこうした業界でも女性の勤続年数は伸びている。その理由として,アシスタント的職務でも,「阿吽の呼吸」や「特殊な社内文化」などを理解する熟練者は,企業にとって重宝されるからだ。
とりわけ,総合職の異動が激しい都銀や総合商社などでは,1つの部署に長く勤務し続ける庶務役の女性が,文化継承の要であったりもする。つまり,勤続者は歓迎される傾向にあるのだ。
そして,こうしたアシスタント職の場合,ひとつの部署でひとつの仕事をこなし続けるために,休業したとしても,そのブランクが「将来のキャリア形成にマイナス」などとならない。数年休んでも戻ってきやすいというメリットとなる。そのため,最近では女子一般職の勤続年数が伸びているのだ(こうした一般職の有利さを知ると,ますます,総合職で男性同様にキャリアを築こうという気持ちが削がれるかもしれない)。
そして最後の4点目が,ライフイベント(出産・育児)に達しない短期雇用のため,女性採用に躊躇しない業界。定着率が良くないために,出産適齢期まで残る女性が少ない産業だ。ここに分類されるのが,IT・コンサルとサービス・小売業。
海老原嗣生 (2012). 偏差値・知名度ではわからない 就職に強い大学・学部 朝日新聞出版 pp.136-137
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