日本の学生は,企業のうわべの人気だけを気にしすぎるという大問題だ。これが,正しい行動ならばいいだろう。しかし,往々にして,将来自分の首を絞めることにつながる。
なぜなら,人気企業とは,現時点が最盛期であり,その後は停滞期に入るケースが多いからだ。そうした企業を志望するということは,「終わった産業」に入ることと同義なのだ。
ただ,学生はいつの時代もその過ちを繰り返してきた。
1950年代ならば3白(砂糖・製紙・セメント)と石炭,1960年代なら造船,鉄鋼,1980年代ならJAL,そして現在ならさしずめマスコミだろう。
私は,トヨタの相談役であり,同社中興の祖である奥田碩氏が話した,以下の様な言葉を覚えている。
「私の時代は,できる人たちはみな3白に就職していった。私はデキが悪かったから,たまたま愛知にある田舎企業にしか就職できなかった。その企業が今では世界一となっている」
同じことは,1990年代にも起きている。今度はテレビと新聞が広告メディアとして退潮期にさしかかり,代わってインターネットが主役に躍り出始めた時期だ。時代の空気を読んで,サイバーエージェントや楽天,ヤフーなどの企業がこの時期に立ち上がっている。
ただ,それでも旧来メディアへの志望熱は冷めず,学生たちが本気でイーコマース系に動き出したのは,それから10年ほど時が過ぎてからだ。
この繰り返しからは,なかなか抜け出すことはできないと思う。なぜなら,今全盛の産業が「終わった産業かどうか」は通り過ぎてからでないとわからないし,「これから花開く明日の産業」についても同じことが言えるからだ。
さて,なぜ私は,いまこの「終わった産業」についてこの場で話しているのか。
それは,日本の大学生が「人気企業(終わった産業)」にしがみつき,「不人気企業(明日の産業)」を敬遠しているその裏側で,不人気産業は,優秀で辞めない外国人学生を戦力化し,将来の海外進出の先兵にしようとしているからだ。
海老原嗣生 (2012). 偏差値・知名度ではわからない 就職に強い大学・学部 朝日新聞出版 pp.184-186
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