歴史上最悪の時代を振り返ってみるとわかるのですが,それは必ず絶対的な独断と盲信に凝り固まった人々がいたときのようです。しかも熱心さのあまり,世界中の人々が一人残らずそれに賛同すべきだと言い張り,さらに自分の主張の正しさを証明するため,今度はその信念の正反対を実行するしまつでした。
歴史を通じて人間は何度となく袋小路に封じこめられ,どうにも身動きがとれなくなった時期がありました。人類が二度とそのような窮地に陥ることなく,常に動き,常に自由な方向に進む望みは,一に無知と不確かさを認めることにあると,僕は第一回目の講演でお話ししましたが,重ねてそれを強調したいと思います。僕たちは生命の意味を知らず,正しい道徳的価値が何であるかも知りませんし,それを選ぶすべさえもっていない。道徳的価値とか生命の意味などは,道徳の大根源であり,意味の解明に長けた宗教の領域に踏みこまなくては,とても語れそうにありません。
R.P.ファインマン 大貫昌子(訳) (2007). 科学は不確かだ! 岩波書店 p.46-47.
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