これらに共通する特徴は,入社してからも終わらない「選抜」があるということや,会社への極端な「従順さ」を強いられるという点である。また,両社とも新興産業に属しており,自社の成長のためなら,将来ある若い人材を,いくらでも犠牲にしていくという姿勢においても共通している。経営が厳しいから労務管理が劣悪になるのではなく,成長するための当然の条件として,人材の使い潰しが行われる。いくら好景気になろうが,例え世界で最大の業績を上げようが,彼らの社員への待遇は変わることがない。社内の選抜と,「従順さ」の要求には終わりがないのだ。もちろん「正社員」などというものも,これまでとはまったくことなった意味しか付与されていないことがわかる。
結局のところ,これらの企業に入社しても,若者は働きつづけることができない。これから見ていく各章で,ブラック企業の行動原理については,いくつかに分類していくことになるが,働き続けることができない点で,すべてのブラック企業は共通している。ブラック企業がいくら増えたところで,そして,彼らがいくら雇用を増やしたところで,若者にとって安心して働ける社会は訪れない。
それどころか,彼らにとって,新卒,若者の価値は極端に低い。「代わりはいくらでもいる」,取り換えのきく「在庫」に過ぎない。大量に採用し,大量に辞めていく。ベルトコンベアーに乗せるかのように,心身を破壊する。これら大量の「資源」があってはじめてブラック企業の労務管理は成立する。「代わりのいる若者」は,ブラック企業の存立基盤なのである。
「正社員になること」を唯一の解答として与えられてきた若者にとって,正社員になったとしても,必ずしも安定が保証されないという事実は,残酷としかいいようのない事態である。いまやどれだけ競争して,正社員を目指したとしても,そしてたとえその競争に「勝利」したとしても,個人的にすら問題は解決しない。ブラック企業の問題は,格差問題が,非正規雇用問題から,正社員を含む若者雇用全体へと移行したことを示している。
今野晴貴 (2012). ブラック企業:日本を食いつぶす妖怪 文藝春秋 pp.61-63
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