若者を食いつぶす動機は,いくつかに分類できる。
第1に,(1)「選別」(大量募集と退職強要)である。大量に採用したうえで,「使える」者だけを残す。これは,利益を出し続けるためには,ぜひともかなえたい,企業の欲望である。だが,通常の企業はこれを禁欲する。法的なリスクが高いうえ,社会的信用を傷つける恐れがあるからである。この「一線」を軽々飛び越えていくところに,新興成長企業の恐ろしさがある。
第2に,(2)使い捨て(大量募集と消尽)という動機がある。これは文字通り,若者に対し,心身を摩耗し,働くことができなくなるまでの過酷な労働を強いることだ。「労働能力の消尽」ともいえよう。これも,詳しくは第II部で述べるが,従来の企業では見られなかったことだ。しかも,大量に新卒を募集して,次々に使い捨てるため,労働不能の若者を大量に生み出す。(1)「選別」も(2)「使い捨て」も大量に募集して,残らない(働き続けることができない)という点では共通している。
第3に,(3)「無秩序」,つまり動機がない場合。これは,明らかな経営合理性を欠いているようなパターンである。パワハラ上司による(辞めさせるためではない)無意味な圧迫や,セクハラがそれである。これらは,「代わりがいくらでもいる」状態を背景とし,会社の労務管理自体が機能不全を引き起こしている状態である。
今野晴貴 (2012). ブラック企業:日本を食いつぶす妖怪 文藝春秋 pp.78-79
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