「固定残業代」が合法であるための条件は,(1)何時間分で何円分の残業代が含まれているかが(計算すれば)わかること,(2)残業代の部分や基本給の部分の時給がそれぞれ最低賃金を下回っていないこと,(3)予め支払っている残業代の分よりも長く働いた場合,超過した分の残業代を支払うことだ。これらの条件を満たせば,「固定残業代」は違法とはいえない。
隙の無い「固定残業代」は違法ではない。しかし,これを正当なものだと言えるだろうか。ある会社は,100時間分の残業代や深夜労働,休日労働の割増を全て予め基本給に組み込んで支払っていた。働いている労働者は,そんな仕組みになっているとは思わないため,「給料は良いが仕事がきつい上に残業代も出ない」という程度の認識しかない。いざ残業代を請求しようとして初めて,会社側の策略に気がつくのである。計算してみて驚いたのは,1円のずれもなく最低賃金と一致するように賃金が設定されていた。
今野晴貴 (2012). ブラック企業:日本を食いつぶす妖怪 文藝春秋 pp.83-84
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