具体的に「戦略的パワハラ」の手口を紹介しよう。
まず,この手の会社にはリストラ担当の職員がいる。彼らは狙いをつけた職員を個室に呼び出し,「お前は全然ダメだ」と結論ありきの「指導」をする。業績不振をあげつらうこともあれば,「うちの社風に合っていない」と「指導」することもある。そしてその職員が「ダメな奴」であることを前提に,様々なタスクを課す。
たとえば,PIP(Performance Improvement Program: 業務改善計画)と称して達成不可能なノルマを設定させ,「そのノルマを達成できないなら責任をとれ」と転職をほのめかす。達成可能なノルマを設定すると,「意識が低い」とつめよられるため,この手のPIPに入ったら逃げ道はない。
Y社の場合には,「リカバリープラン」と称して精神的に追い詰めるようなタスクを課していた。坊主頭での出勤を命じたり,コンサルタント会社の集まる社ビルにスウェットで出勤するよう命じたり,他にも「コミュニケーション力を上げるために」と駅前でのナンパ,中学校の漢字の書き取りなどをさせる,いずれのタスクもやり遂げたところでその状態から抜け出せるわけではなく,当然ながら本人にとっても意味が感じられない。
会社からの「指導」に素直に従ってしまう人は私たちに相談に来る人の中でも多く,ある人は会社に認めてもらおうと難しい資格を短期で3つも取って能力を示した。にもかかわらず,会社は「うちに合わないから改善が必要だ」と追い込む。
こうしたことを繰り返していると,人間は驚くほど簡単に鬱病や適応障害になる。そうなった頃に,「会社を辞めた方がお互いにとってハッピーなんじゃないか」と転職を示唆するのである。「解雇してほしい」と労働者が言ったとしても,「うちからは解雇にしないから自分で決めてほしい」と,退職の決断はあくまでも労働者にさせる。
精神障害になることは初めから想定されているため,労働者が病気になるまで追い詰められたとしても会社は躊躇しない。適応障害になったと報告した社員に「ほら,前からうちには合わないって言っていた通りでしょ。あなたはうちには適応できないんですね」と言って謝罪させ,一緒に精神科の産業医のもとに行って「この人はうちで働き続けないほうがいいですよね」と産業医に同意を求め,更に精神的に追い込んだ例もある。
今野晴貴 (2012). ブラック企業:日本を食いつぶす妖怪 文藝春秋 pp.90-91
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