その結果,今度はそうした損害賠償を請求されないような方法で,ハラスメントを行う企業が現れ始めたのである。それは「ソフトな退職強要」と呼ぶべき方法だ。
ソフトな退職強要では,あからさまなハラスメント行為は行われず,ただひたすら会社に「居づらくなる」ような方法をとる。例えば,挨拶に返事をしないというのがその典型だ。そのほかにも,例えば,「どうしたいの?」と定期的に言われ続けるという相談もあった。これだけだとハラスメントだとはわからないだろう。だが,「そうしたいの?」という言葉は,会社に居続けることができないような雰囲気とプレッシャーを与えるために用いられている。そして実際,本人はこのまま会社に残ることはできず,辞めるしかないと思っているのである。
また,「能力が低いから,他の道を考えた方があなたのためだ」「この仕事に向いていないと思う。あなたのためにも他に合った仕事を見つけた方がいいのでは」「仕事ができないなら,違う仕事を紹介できるけど」,さらには「わたしだったら採らない」と言われるケースも見られた。さらに,仕事を与えられない,自分で仕事を見つけてきても「一切評価しない」と言われたとの相談もあった。これらの場合には実質的には「辞めた方が良いのでは」と退職を促しているが,直接的な強要ではなく,上司らが退職を「求めている」というニュアンスを伝え続けることで,職場に居続けることを難しくする。
今野晴貴 (2012). ブラック企業:日本を食いつぶす妖怪 文藝春秋 pp.118-119
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