その上,ブラック企業に就職する大卒の学生は,多額の奨学金(借金)を背負っている場合もかなりの割合に上る。日本の奨学金は日本学生支援機構(旧育英会)をはじめ,ほとんどが「ローン」であるうえ,多くの場合,利子も付加される。奨学金の支払い請求は解雇された後も苛烈に行われる。返済が滞れば,速やかに金融機関の「ブラックリスト」に登録され,生涯,ローンを組んだりカードを作るときについてまわる。
こうした新卒からの相談の場合,もしも両親に彼/彼女を支えるだけの資力がない場合,もはや生活保護以外に支える手段はない。新卒からの相談では,ほとんどの場合当人は「何とか生保以外の社会保障はないか」と相談を寄せるのだが,実際には生保しか生き延びる方法はないのである。もし生活保護を忌避してホームレスや,ネットカフェを転々とするいわゆる「ネットカフェ難民」となってしまえば,精神疾患はより悪化し,生活はすさむ。ただ正社員から病気になった,という以上の「貧困者」としての性質が付与されてしまい,社会復帰はより困難になる。
今野晴貴 (2012). ブラック企業:日本を食いつぶす妖怪 文藝春秋 pp.163
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