これまでも,日本では厳しいノルマや長時間労働が課せられてきたが,それらは「くらいついていけば,将来がある」ものだった。しかし,ブラック企業の命令に従うと,戦略的に退職に追い込まれるかもしれない。本当に意味のある業務命令なのか,辞めさせるための業務命令なのか,それは,若者自身にはわからない。
こうした「ソフトな退職強要」が横行する社会では,心身を仕事に没入させようなどと考える方が,間違っている。そのため,今度は,もしまともな企業が若者を育てる目的のために厳しい業務を課したり,厳しい叱責を行ったとしても,それが本当に「育てるため」なのかが疑われてしまう。最近,「厳しく育てようとすると,パワハラだと感じる若者が増えている」というデータが各所で示されている。ブラック企業からの相談を受けている私からすると,これは若者の「受け止め方」の問題ではなく,実際にブラック企業という「リスク」が存在するために自然と発生した自衛的な思考である。
今野晴貴 (2012). ブラック企業:日本を食いつぶす妖怪 文藝春秋 pp.168
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