「ピッチャーは普通,ホームベースを広く使うために外側へ逃げていくボールを好んで投げるんです。インコースは近くへ,アウトコースは遠くへ逃げていく。コーナーを突く時は,そういう球で勝負するのが当たり前だったんですけど,僕は外から真ん中へ,近めから真ん中へ入ってくる,逆にスライドするボールを使うんです。バッターは,逃げていくボールが厳しくて,中へ入ってくるボールが甘いんだと決めているけど,打ってこない初球とか,ワンストライクを取るときにわざと中へ入るボールを使うんです。そうすると,ストライクゾーンをすごく広く感じてしまうものなんです。だから,左打者の外側からのスライダーやカーブを,僕はよく投げるでしょ。時にはシュート回転して真ん中に入ってしまうストレートも,その後の組み立てには役立ったりするんですよ。ストレートでも,シュート回転はダメとかいうでしょ。そうじゃない。シュート回転のストレートで初球ストライクが取れれば,それでもバッターには残像が残ってる。で,ちょっと内側を見せといて,最後は初球の真っすぐと同じところへスライダーを投げる。同じところだから,甘く中へ入ってくるもんだと思って打ちにいくでしょ,スライドして逃げていくんですよ。これはもうついていくだけで精一杯ですよ」
石田雄太 (2007). 桑田真澄:ピッチャーズ・バイブル 集英社 pp.79
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