実際,桑田は,度胸と工夫を武器に,<人生最大のコンプレックス>と戦い,大きく成長した経験を持っている。桑田真澄の人生最大のコンプレックス,それが清原和博という存在だった。恵まれた体,あふれる才能,天真爛漫な性格,温かい家庭で何不自由なく過ごしてきた清原は,どこをとっても自分とは正反対の存在だった。その清原に負けないためには,工夫を重ねた練習を人の何倍もしなければ話にもならなかった。
清原もまた,桑田に得体の知れないコンプレックスを感じていた。ピッチャーに憧れていた清原が,PLでもエースになるという夢をあきらめたのは,桑田がいたからだが,それにしても,おとなしくて目立つこともない小柄な男になぜ自分がかなわないのか,最初は納得できなかった。しかし,桑田に投手としての才能を見せつけられるたびに,清原は自分に持っていないものを持っているこの天才投手を認めざるを得なかった。そのことが,投手ではなく打者として一流への階段を上ろうと決意させるに至ったのだった。
石田雄太 (2007). 桑田真澄:ピッチャーズ・バイブル 集英社 pp.233-234
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