今久留主が言うように,桑田の練習量は半端ではなかった。誰も文句を言えないほどに,走っていた。そして,入学早々の桑田と清原を先輩たちに認めさせる,ある事件が起きた。1年生が集められてボールを打たされた。しかも,竹でできた飛ばないバットで打てというのである。ところが,並み居る1年生の中で桁外れに体が大きかった清原は,その竹バットで何と柵越えを連発したのだ。先輩ばかりか桑田も仰天した。
「僕なんか外野に1本で,それもやっとショートの頭を越えたのが1本だけだったのに,彼は10本中,8本くらい場外へ持っていったんですね。その打撃を見て,こりゃ,すぐプロへ行ったほうがいいんじゃないかという気がしましたね」
しかしながら,誰よりも体の小さかった桑田もまた周囲を驚かせた。円筒を命じられた1年生。そこは中学の腕自慢たち,できるだけ遠くへ飛ばそうとボールを高く投げあげる。ところが,桑田はゆっくり前へ進むとそこで立ち止まった。そして何と,真っすぐ,低い弾道のボールを投げたのである。しかもそのボールは,ライトのフェンスを直撃した。さすがの清原も愕然とした。
「体は凄く小さいし,おとなしいタイプなんであまり存在感もなかったんですけど,ひとたびユニフォームを着て野球すると,打っても凄いし,もちろん投げても凄いし,走っても凄いし,とにかく印象に残ってますね」
石田雄太 (2007). 桑田真澄:ピッチャーズ・バイブル 集英社 pp.236-237
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