第1世代の精神科治療薬の発見から,それが「魔法の弾丸」へと変貌を遂げるまでを振り返ると,1970年までの歴史的展開として2通りの筋書きが考えられる。第1の可能性は,精神医学は驚くべき幸運な偶然によって,数種類の薬を発見し,その薬は動物に異常行動を引き起こすにもかかわらず,精神病患者の脳内の化学作用の様々な異常を修復できるものだったという筋書きである。もしその通りなら革命は本物であり,薬を服用した患者の長期的な転帰を調べれば,健康が回復し持続していることが明らかなはずである。第2の可能性は,精神医学は独自の「魔法の弾丸」を所有し医療の主流に加わることを切望するあまり,薬を実際とは違うものに化けさせてしまった。実は第1世代の治療薬は,動物実験が示すように,正常な脳機能を混乱させる薬にすぎない,という筋書きだ。もしそうだとすると,長期的転帰は問題だらけであると考えるのが妥当だろう。
歴史的展開の可能性は2通りある。そして1970年代から80年代にかけて,研究者はこの重大な質問に答えるために研究を重ねた。鬱病や統合失調症と診断された人々は,本当に脳内の化学的バランスが崩れていて,それで薬で修正されるのか。新薬は本当に脳内の化学的異常を治す治療薬なのか。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.99-100
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