セロトニン作動性経路は,進化の歴史とともに古い。セロトニン作動性ニューロンは,すべての脊椎動物と大半の無脊椎動物の神経系に存在し,人間の場合は,脳幹の縫線核という部位にこのニューロンの細胞体がある。セロトニン作動性ニューロンの一部は,呼吸・循環・消化活動をコントロールする脊髄に長い軸索を下ろしている。その他は小脳・視床下部・基底核・側頭葉・辺縁系・大脳皮質・前頭葉などの脳のあらゆる領域に向かって軸索を伸ばしている。この経路は,記憶・学習・睡眠・食欲・気分や行動の調整に関与している。ニューヨーク大学生物学教授,エフライン・アズミチアの言葉によれば,「脳のセロトニン系は随一の脳システムであり,いわばニューロン系の『巨人』である」。
また脳には主に3つのドーパミン作動性経路がある。3つのシステムの細胞体は全て,脳幹の頂部の黒質または腹側被蓋野にある。ニューロンの軸索は,基底核(黒質線条体)・辺縁領域(中脳辺縁系)・前頭葉(中脳系皮質)に延びている。基底核は運動の開始と調節に関与し,辺縁系——とくに嗅結節・側坐核・扁桃体——は前頭葉の後ろにあって,感情を調整する。私達はこの部分によって世界を感じるのだが,それは自己感覚と現実概念に欠くことのできないプロセスである。前頭葉は人間の脳の最も特徴的な部位で,自分自身を監督するという神のような能力を私たちに与えている。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.105-106
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