それ以降の研究は,統合失調症と診断された人のドーパミン作動経路に何らかの異常を見つけようとするもので,患者集団の一部にある種の異常が見られるという報告が時折出る程度にとどまった。1980年代末には,統合失調症の化学的アンバランス仮説——統合失調症はドーパミン系の過活動による疾患であり,薬である程度バランスを修復できる——の崩壊は目に見えていた。1990年にピエール・デニカーは「精神科医は,統合失調症のドーパミン作動性理論をほとんど信じていない」と言い,4年後,ロングアイランド・ユダヤ人医療センターの著名な精神科医ジョン・ケーンも,「統合失調症の原因はドーパミン機能の混乱であるという説には,確固とした証拠がない」と言った。それでもなお,一般の人々は相変わらず,統合失調症の脳はドーパミン系の活動が過剰で,薬は「糖尿病にとってのインシュリン」のようなものだと聞かされ続けたのである。だから元NIMH所長,スティーブ・ハイマンは2002年の著書Molecular Neuropharmacologyで,再度,真実を訴えずにはいられなかった。「ドーパミン系の障害が統合失調症の主な原因であるという説得力のある証拠はない」。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.115-116
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