何かが間違っており,臨床観察がこの疑念を強めた。退院後も投薬を受けている統合失調症患者があまりに頻繁に精神科救急治療室に戻ってくるため,病院のスタッフはこれを「回転ドア症候群」と名付けた。たとえ患者が確実に薬を飲んでいても再発が多く見られ,研究者らの観察によると「非投与と比べ,薬を投与した方が再発率が高くなる」という。一方で,薬を中止した後に患者が再発した場合,精神症状は「持続し激化する」傾向があり,少なくともしばらくの間は,悪心,嘔吐,下痢,興奮,不眠,頭痛,奇妙な運動チックといった一連の新たな症状も現れた。神経遮断薬への初期暴露により,将来的に重度の精神病エピソードを起こしやすくなるように思われ,この傾向は,薬物療法を続けるかどうかにかかわらず認められた。
この惨憺たる結果を受けて,ボストン精神病院の医師,J.サンボーン・ボコーブンとハリー・ソロモンは過去のデータを再検討した。彼らは数十年も同病院に勤務していたが,最先端の心理療法で患者を治療していた第二次大戦終了後の時期は,大部分が得てして改善するのを目にしていた。ここから2人は,「精神疾患,特に極めて重度の疾患の大半は,患者が屈辱的な体験や権利・自由の喪失に遭わない限り,概ね自然に治っていくような性質のものだ」と信じるようになった。抗精神病薬は,この自然な治癒過程を加速させるはずだ,と2人は推論した。だが薬によって長期的転機は改善していたか?彼らは後方視的な研究で,1947年に同病院で治療した患者の45パーセントがその後5年以内に再発しておらず,追跡調査期間の終了時に76パーセントが地域社会で問題なく生活していることを確認した。対照的に,1967年に同病院で神経遮断薬を投与された患者のうち,5年間再発しなかったのは31パーセントにとどまり,全体としてこの集団は「社会的依存度」(社会福祉に依存,または他の支援を要する)がはるかに高かった。「極めて意外なことに,以上のデータから向精神薬は不可欠ではない可能性が示唆される」と2人は述べた。「秒後の治療で長期的に薬を使うことにより,多くの退院患者の社会依存が長引くおそれがある」。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.146-147
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