ソラジンなどの標準的な抗精神病薬は,脳内のD2受容体の70〜90パーセントを阻害する。この阻害を埋め合わせるため,シナプス後ニューロンはD2受容体の密度を30パーセント以上高める。シュイナードとジョーンズの説明によると,こうして脳はドーパミンに「過敏」になり,この神経伝達物質が精神病を媒介すると考えられる。「神経遮断薬は,ジスキネジア症状と精神病症状の双方の原因となるドーパミン過敏をもたらすおそれがある」と2人は述べる。「つまり,こうしたドーパミン過敏に陥った患者が精神病を再発する傾向は,単なる病気の通常の経過以外の要因に左右されている」。
簡単な喩えを使えば,薬のせいで精神病に罹りやすくなり,薬を中止したタイミングで再発する理由を理解しやすくなる。神経遮断薬はドーパミン伝達にブレーキをかけるため,脳はこれに対抗してアクセル(D2受容体の過剰産生)を踏む。薬を突然止めるのは,アクセルを床一杯踏み込んだ状態のままで,ドーパミンを抑えるブレーキから急に足を離すのと同じだ。すると神経伝達系が大きくバランスを崩し,車が暴走するように脳内のドーパミン作動経路も手がつけられなくなる。基底核のドーパミン作動性ニューロンがあまりに急激に興奮するため,薬を中止した患者に奇妙なチックや焦燥,その他の運動異常が現れるのだ。辺縁系に至るドーパミン作動経路にも,同じように制御できない興奮状態が生じ,それが原因で「精神病の再発や悪化」を引き起こす可能性がある,と2人は指摘する。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.154
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