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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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精神分析学

 人間の心理に不安は付き物で,進化によって私たちは心配や恐怖に適応したとはいえ,中には他の人より強く不安を感じる人もいる。こうした感情的苦痛は診断できる症状であるという考え方を初めて提起したのは,ニューヨークの神経科医ジョージ・ビアードだった。ビアードは1869年,心配や不安,疲労,不眠は「神経の疲弊」から生じると発表し,この身体疾患を「神経衰弱症」と名付けた。この診断が広く見受けられることが判明し,神経衰弱症は,南北戦争後のアメリカを席巻していた産業革命の副産物と考えられた。特許約メーカーは,アヘンやコカイン,アルコールを配合した「神経強壮剤」を発売した。神経学者が電気の持つ回復力を喧伝したのを受け,神経衰弱症と診断された人々は電気ベルトや電気サスペンダー,携帯マッサージ機器を買い求めた。裕福な人々は「安静療法」が受けられる温泉場に足を運び,鎮静効果のある入浴やマッサージ,多様な電気機器による癒しで神経を回復させた。
 ジグムンド・フロイトは,この患者集団を治療するため精神分析を行ったが,それによって精神医学は精神病院から診察室へと進出を果たした。1856年生まれのフロイトは,1886年にウィーンで神経科を開業したが,彼の患者の多くは神経衰弱に苦しむ女性だった(ビアードが発見した病気は,ヨーロッパでも一般的になっていた)。クライアントと長時間会話した末,フロイトは患者らの不安や心配は疲弊した神経のせいではなく,本質的に精神的なものだと確信した。彼は1895年に女性の「不安神経症」について執筆し,この症状は概ね,性的欲望や夢想の無意識的な抑圧が原因で生じると理論づけた。こうした精神的葛藤に苦しむ人は,ソファに横になり医師の助けを借りて自分の無意識を探求する精神分析を通じて,安らぎを見出だせるという。
 当時,精神科医は精神病院で頭のおかしい患者を治療する職業であり,神経が疲弊した人は神経科医か一般医を受診した。だがもし不安が,神経の消耗でなく脳の精神障害から生じるなら,精神科医がこうした患者の面倒をみるのも筋が通ったことである。フロイトが1909年に訪米して以降,ニューヨークを中心として精神分析学コミュニティが形成され始めた。1909年には個人診療を行っていた精神分析医は全米でわずか3%だったが,30年後には38パーセントが個人の診療所で患者を診ていた。加えてフロイト学派の理論により,ほぼ誰もが精神分析の対象となった。フロイトは1909年の訪米中にこう語っている。「神経症患者は,健康な人が抱えるのと同じコンプレックスのせいで病気になる」。

ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.186-187
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