ヒポクラテスも,2000年以上前にこれと同じように持続的な憂うつを区別し,黒胆汁(ギリシャ語でmelania chole)の過剰が引き起こす病気であるとした。症状として,「長期的な恐怖感」を伴う「悲嘆,不安,落胆,[および]自殺傾向」が挙げられた。黒胆汁の過剰を抑え四体液のバランスを取り戻すため,ヒポクラテスは,マンドレイクとヘレボルスを煎じて飲むこと,食生活の見直し,それに下剤効果・催吐効果のある薬草の服用を勧めた。
中世には,深刻な憂うつに陥った人間は,悪魔にとりつかれていると見なされ,悪魔払いのため司祭や祈祷師が呼ばれた。ルネッサンス期の到来とともに,古代ギリシャの教えが改めて見直され,15世紀の医師は持続的な憂鬱を再び医学的見地から説明するようになった。1628年に医学者ウィリアム・ハーベーが血液の循環を発見すると,ヨーロッパの多くの医師が憂うつは脳への血液不足から生じると推理した。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.221-222
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