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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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効果検証の歴史

 抗うつ薬の短期的効果に関する臨床治験の歴史は,実に興味深い。というのもこの歴史を振り返れば,臨床治験では概ね残念な結果が出ているにもかかわらず,社会や医療関係者が,薬には魔法のような効果があるという思い込みにいかに執着しているかが明かされるからだ。1950年代に開発された2種類の抗うつ薬,イプロニアジドとイミプラミンを基にして,モノアミン酸化酵素阻害剤(Monoamine Oxdase Inhibitors; MAOI)と三環系という大きく分けて2つのうつ病治療薬が誕生した。1950年代末から60年代初めに行われた研究の結果,どちらも素晴らしい効果を示すことが判明した。だがこれらの研究の質は疑わしく,英国医師会は1965年,2種類の薬に対しさらに厳密な検証を実施した。三環系(イミプラミン)はプラセボに対しある程度の優位性を示したが,MAOI(フェネルジン)の優位性は認められなかった。MAOIを用いた治療は「全く成功しなかった」。
 4年後,NIMHは全ての抗うつ薬試験のレビューを実施し,「適切な対照群と比較した試験ほど,報告された薬による改善率は低くなる」ことを明らかにした。十分に統制された研究では,投薬治療患者の61パーセントが改善したのに対しプラセボ患者の改善率は46パーセントと,両者の差は正味15パーセントに過ぎなかった。「抗うつ薬とプラセボの効果の差は,印象的ではない」とNIMHは述べた。ついでNIMHは,イミプラミンに対し独自の試験を実施したが,三環系がプラセボに対して有意な効果を示したのは精神病性うつ病の患者のみだった。投薬治療を実施した患者のうち,7週間の試験を終了したのは40パーセントにとどまり,多くの脱落者が出た理由は症状の「悪化」だった。多くのうつ病患者にとって,「疾患の臨床経過への影響という点で,薬が果たす役割は軽微である」とNIMHは1970年に結論を下した。
 イミプラミンや他の抗うつ薬の効果の小ささから,一部の研究者らは,実は患者はプラセボ反応により改善したと感じているのではないかと考え始めた。薬は実際には,このプラセボ反応を増幅させているのであり,薬に身体的な副作用があるせいで,患者は自分がうつ病に効く「魔法の薬」を飲んでいると信じこんでいるのではないか,と推測する声もあった。この仮説を検証するため,研究者らは三環系抗うつ薬を不活性プラセボではなく,「活性」プラセボ(口内乾燥など,何らかの種類の不快な副作用をもたらす化学物質)と比較する試験を7件以上実施した。7件中6件で,転帰に差は認められなかった。
 つまり不活性プラセボをわずかに上回るが,活性プラセボと差はないというのが,1970年代に三環系抗うつ薬が積み上げた有効性に関する記録だった。NIMHは,イミプラミンの有効性をめぐるこの問題を1980年代に改めて検討し,イミプラミンを2種類の心理療法,およびプラセボと比較したが,転帰に変化は見られなかった。16週間の試験終了時,「重篤度が低いうつ病患者と機能障害患者について,プラセボ+臨床管理を含め治療群間に有意差は認められなかった」。重度のうつ病患者のみ,イミプラミンの方がプラセボに比べ経過が良好だった。

ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.225-227
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