最後にもう1つ検討すべき研究がある。2006年に,ブラウン大学の精神科医マイケル・ポスターナックは,「残念ながら,大うつ病を治療しなかった場合の経過について,我々は直接体な知識をほとんど持っていない」と告白した。APAの教科書やNIMHの研究で詳細に記述された長期的な転帰が悪いことは,投薬を行ったうつ病についての話であり,全く性質の異なる問題だと考えられる。現代における無治療のうつ病の経過を調査するため,ポスターナックらは,NIMHの「うつ病に関する精神生物学プログラム」に参加した患者のうち,初回のうつ病発作から回復したのち再発したが,薬物療法に戻らなかった患者84人を特定した。これらの患者は「非暴露」群ではなかったが,それでも彼らが2回めのうつ病エピソードから「治療を受けず」回復した経緯を追跡することができた。結果は,次のようなものだった。23パーセントが1カ月で,67パーセントが6カ月で,85パーセントが1年以内に回復した。かつてクレペリンは,うつ病エピソードは治療しなくても一般に6〜8ヵ月以内に消失すると述べたが,今回の研究結果は「おそらくこの推定に対し,方法論的に最も厳密な形で裏付け」を提供するものだとポスターナックは指摘している。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.245
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