現在の双極性障害は,かつてとかけ離れた姿になっている。精神薬理学が登場する以前,双極性障害はおそらく1万人に1人ほどしか罹患しない珍しい病気だった。それが今では40人に1人(統計によっては20人に1人)の割合で発生している。現在の患者の大半は,(初回診断時には)かつての入院患者ほど症状はひどくないものの,その長期的な転帰は不可解なほどに悪化している。バルデッサリーニは2007年のレビューで,この転帰の大幅な悪化を段階を追って詳しく説明してさえいる。薬が登場する以前は,「エピソードの合間に正常気分[無症状]への回復と望ましい機能的適応」が見られた。だが現在は,「急性エピソードからの緩慢または不完全な回復,再発リスクの持続,および病的状態の長期的継続」が認められる。かつては双極性障害の85パーセントが,「罹患前の」機能を完全に回復し仕事に復帰していた。現在,「罹患前のレベルの社会的・職業的機能の完全な回復」を達成しているのは3分の1に過ぎない。かつては,患者に長期的な認知機能低下は見られなかったが,今では統合失調症患者とほぼ同程度の機能低下に至っている。これらは全て,驚くべき医療災害の存在を物語るものである。バルデッサリーニは,薬物療法革命という現象全体に相応しい評価として次のように書き記している。
双極性障害の転帰は,かつて比較的良好とみなされていたが,現代の知見から,治療法の大幅な進歩にもかかわらず,この障害が蔓延し不良な転帰が広く見られると示唆される。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.283-285
PR