研究によってADHDが「脳疾患」と証明されたという話をしばしば耳にするが,実際にはADHDの病因はいまだ不明のままである。「ADHDの生物学的基盤を明らかにしようとする試みは,これまで一貫して失敗に終わってきた」と小児神経学者のジェラルド・ゴールデンは1991年に述べている。「画像研究で示されたように,脳の神経構造は正常である。神経病理的な基質は全く認められない」。7年後には,国立衛生研究所が主催した専門委員会がこれと同じ見解をとり,「ADHDに関する長年の臨床研究および臨床経験を経た今も,ADHDの原因についての我々の知識は,おおむね推測にとどまっている」と改めて表明した。1990年代にはCHADDが一般市民に対し,ADHDの子どもにはドーパミン系の活動低下を特徴とする脳内化学物質のアンバランスが生じているとの見解を示したが,それは単に薬の売上を伸ばすための方便だった。リタリンなどの精神刺激薬はシナプス間隙のドーパミン値を上昇させるため,CHADDは薬が脳内の化学的バランスを「正常化」させると思わせたかったが,アメリカ精神医学会出版が1997年のTextbook of Neuropsychiatryで明らかにしたように,「[ADHDの子どもに]選択的な神経科学的アンバランスを特定しようとする試みは,期待はずれに終わっている」。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.327-328
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