どんな薬でも効果とリスクを分析すべきだが,通常は,効果がリスクを上回るよう期待される。だが今回の場合,NIMHは長期的にみて効果に算入できるものが何一つないことを確認した。そうなると,残るのはリスクのみである。そこで今度は,刺激薬が子どもにどのような悪影響を与えるのかを見ていきたい。
リタリンなどのADHD治療薬は,数多くの身体的,情緒的,精神的な副作用を引き起こす。身体的問題として,眠気,食欲減退,倦怠感,不眠,頭痛,腹痛,運動異常,顔面・音声チック,歯ぎしり,皮膚炎,肝臓障害,体重減少,成長抑制,高血圧,心臓突然死などが挙げられる。情緒面の問題には,抑うつ,無気力,全身倦怠感,気分変動,泣き続ける,苛立ち,不安,世界への敵対感などがある。精神的問題には,強迫症状,躁病,妄想症,精神病エピソード,幻覚などがある。メチルフェニデートは,脳内の血流やブドウ糖代謝も低下させ,一般に「神経病理学的状態」に伴う変化を引き起こす。
刺激薬に関する動物実験も,警告を発するものだ。イェール大学医学部の研究者らは1999年に,アンフェタミンに何度も暴露されるとサルは「異常行動」を示し,その行動は薬の使用を中止後も長期的に続くことを報告した。ラットを用いた様々な研究でも,メチルフェニデートへの長期的暴露により,ドーパミン作動性経路の感受性が恒久的に鈍ること,またドーパミンは脳内の「報酬系」であるため,仔ラットに薬物を与えると「快楽を感じる能力が低い」成ラットに育つ可能性があることが示唆された。ダラス市にあるテキサス大学サウスウェスタン医療センターの研究者らは,「思春期前の」ラットを15日間メチルフェニデートに暴露すると,不安と抑うつを示す「成」ラットになることを明かした。この成ラットは,運動量が少なく新しい環境への反応行動が希薄で,「性行動異常」が見られた。同センターの研究者らは,脳の発達途上で「メチルフェニデートを投与」すると,「成長後の行動適応に異常が生じる」との結論を下した。
以上が,リタリンをはじめとするADHD治療薬の転帰に関する文献である。こうした薬は,多動な子どもの行動を,短期的には教師や一部の親に望ましい方向へと変えるが,それを除けば薬によって多くの面で子どもの生活が損なわれ,喜びを体験する生理学的な能力が低い大人になってしまうおそれがある。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.337-338
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