まずADHDが爆発的に増大し,ついで小児期うつ病が広がっているというニュースが舞い込んだ。それからまもない1990年代後半には,子どもの双極性障害が広く知られるようになった。新聞や雑誌がこの現象をこぞって取り上げ,またしても精神医学界は,この病気の登場を科学的発見というシナリオに沿って説明した。「精神医学界では長らく,10代半ば以降になるまで子どもが双極性障害と診断されることはなく,子どもの躁病は極めて稀だと考えられてきた」。精神科医のデミトリ・パポロスは,ベストセラーとなった著書The Bipolar Childでこう論じている。「だが最先端の研究により,双極性障害は極めて早期に発生する可能性があり,従来考えられていたよりはるかに広く見られる障害であることが,証明されつつある」。だが双極性障害と診断された子どもの数が驚くべき勢いで増加した——1995〜2003年までに40倍——ため,『タイム』は「若者と双極性」と題した記事を掲載し,何か他の要因が関与しているのではないかと疑問を投げかけた。「双極性障害の存在が新たに認識されたというだけでは,子どもの双極性障害の爆発的増加を十分に説明できない」と同誌は論じている。「一部の研究者は,周囲の環境や現代のライフスタイルの中に,通常なら発症しない子どもに双極性障害の発現を促す要因があるのではないかと懸念している」。
この推測は,全く理にかなったものだった。重度の精神疾患がこれほど長い間発見されず,今になって初めて数千人の子どもが深刻な躁病だと判明することなど,あり得るのだろうか?だがもし,環境の中にこうした行動を促す新たな誘因があるなら,この病気が蔓延した理由を論理的に説明できるのではないか,と『タイム』は読者に問いかけた。感染因子が病気の流行を引き起こすのだから,子どもの双極性障害が発生した原因をたどれば,その感染因子を発見できるはずだ。果たして私たちは,この現代の疫病を引き起こしている「外的因子」を特定できるのか?
前に述べたように,精神科薬物療法が登場する以前は躁うつ病は,おそらく1万人に1人という割合で発症する珍しい病気だった。15〜19歳で発症する場合もあるものの,通常は20代まで発症は現れなかった。さらに重要なことだが,躁うつ病が13歳未満の子どもに現れることはほぼ皆無であり,小児科医も医学研究者も必ずこの点を強調した。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.343-345
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