子どもの双極性障害の「表面化」は,すぐに加速した。1980年代後半から90年代初めにかけて,リタリンと抗うつ薬の処方件数が飛躍的に増加すると,それに伴って双極性障害が蔓延した。精神科病棟に入院する反抗的,攻撃的で手がつけられない子どもの数が急激に増加し,1995年にはオレゴン研究所のピーター・レウィンソンが,今やアメリカの思春期人口の1パーセントが双極性障害であると結論づけた。その3年後にはカールソンが,自分が勤める大学病院の小児患者のうち63パーセントが躁病(他でもなく,薬物療法以前は子どもにほぼ皆無であったその症状)であると報告した。「躁症状は例外ではなくてむしろ通例である」と彼女は述べた。それどころか,レウィン損の疫学的データはもはや時代遅れとなっている。双極性と診断されて退院した子どもの数は,1996年から2004年の間に5倍に増加し,今やアメリカの思春期前の子どもの50人に1人がこの「恐るべき精神疾患」に罹っているとされる。「双極性障害という病気が実際にあり,過小評価されているのは確かだ。だがそれを除けば,正確な罹患数はまだ分かっていない」とテキサス大学の精神科医ロバート・ヒルシュフェルトは,2002年の『タイム』で語っている。
双極性障害の流行は最盛期を迎えた。そして歴史を振り返ると,この流行は子どもへの刺激薬や抗うつ薬の処方に呼応して広がりを見せたことが,明らかになる。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.346-347
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