薬のせいで精神病を発症した子どもは,たいてい双極性障害と診断される。加えて,ADHDの薬物療法を経て双極性障害へと進むこうした診断名の変化は,精神医学界の専門家の間ではよく知られた現象である。デミトリ・パポロスは,双極性障害の子どもと青年195人を調べた研究で,65パーセントが「刺激薬療法に軽躁,躁,攻撃的な反応を示す」ことを確認した。シンシナティ大学付属病院のメリッサ・デルベロは2001年,躁病で入院した思春期患者34人のうち21人が,「感情エピソード発現前に」刺激薬を服用していたと報告した。この薬が,「通常は双極性障害を発症しなかっただろう子どもたちに,うつや躁を引き起こしている」可能性がある,とデルベロは認める。
だが刺激薬には,さらに大きな問題がある。刺激薬のせいで子どもたちは,日常的に興奮状態と不安状態を行き来するようになる。子どもが薬を飲むと,シナプス内のドーパミン濃度が上昇し興奮状態が生じる。すると活発になり,集中力が高まり強い興奮状態を示すこともあれば,不安で落ち着きがなくなり,攻撃性や反抗性を示す,眠れないといった状態になることもある。さらに激しい興奮症状として,強迫行動や軽躁行動なども生じる。だが薬が脳内から排出されると,シナプス内のドーパミン濃度が急激に低下するため,疲労,嗜眠,無気力,社会的引きこもり,抑うつなどの不安症状が現れる。患者はたいてい,毎日のように経験する「精神崩壊]を訴える。けれど——この点が重要なのだが——こうした興奮症状と不安症状こそが,NIMHが双極性障害の子どもの特徴とする症状なのだ。NIMHによると,子どもの躁症状は活力増大,目標志向性の活動増加,不眠,イライラ,興奮,破壊的な感情爆発などである。また子どものうつ症状として,活力低下,社会的孤立,活動意欲の減退(無気力),悲嘆などが挙げられる。
つまり,刺激薬を服用するとどんな子どももいくらか双極的になるのだ。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.349-351
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