製薬会社にとって,この新しい協力関係の一番おいしい部分は一流医大の精神科医を——医師自身は「中立」のつもりかもしれないが——「スピーカー(講師)」に迎えられることだった。この関係は,年次総会の有料シンポジウムを通して深まった。シンポジウムは「教育的」プレゼンテーションで,製薬会社は専門家の言説を「統制」しないという約束にはなっていたが,プレゼンテーションにはリハーサルがあり,もし講師が台本から逸れて薬の欠点を指摘したりすれば,二度と講演を頼まれないことは,誰もが承知していた。業界後援のシンポジウムでは,「過敏性精神病」やベンゾジアゼピンの中毒作用,抗うつ薬と陽性プラセボの効果に差はないことなどは,決して取り上げられなかった。講演をした精神科医は「オピニオン・リーダー」として名声を博すようになり,シンポジウムのパネルに入れば精神医学界での「スター」のステータスを獲得できた。1回の講演につき2000ドルから1万ドルもの謝礼が支払われた。「今のシステムは高級売春に近づいている案ずる人もいた」とE.フラー・トーリーは言った。
ロバート・ウィタカー 小野善郎(監訳) (2012). 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 福村出版 pp.412-413
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