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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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分離脳患者の実験

 なかでも不気味な実験の1つとして,ガザニガは2つの画像——ハンマーとのこぎり——をジョーの異なる視野で見せた。つまり,ハンマーの画像は左半球で,のこぎりの画像は右半球で見えるようにしたのだ。そのあとで「なにが見えた?」とガザニガはジョーに尋ねる。
 「ハンマーが見えた」とジョーが答える。
 ガザニガは少し間を置いて,「では,目を閉じて左手で描いてごらん」と言う。ジョーは左手でマジックを拾い上げるが,その行動をつかさどっているのは彼の右半球である。「やってごらん」とガザニガが言うと,ジョーは左手でのこぎりを描く。
 「上手に描けたね。それはなんだい?」とガザニガが尋ねる。
 「のこぎりかな?」ジョーは少し戸惑いながら答える。
 「そうだね。君が見たのはなに?」
 「ハンマーだ」
 「どういうつもりでその絵を描いた?」
 「わからねえ」とジョーは,というよりも彼の左半球は答える。
 別の実験では,ガザニガは分離脳患者の「言語を発する」左半球にニワトリの足を見せて,「言語を発しない」右半球に積もった雪を見せる。この患者は雪かき用のシャベルを描き,ガザニガがなぜシャベルを描いたのかと患者に尋ねても,彼は気後れした様子をまったく見せず,動揺することもなかった。「ああ,単純な話さ。ニワトリの足といえばニワトリだし,ニワトリ小屋を掃除するにはシャベルが必要だろ」と何ごともないように答えたのだ。言うまでもなく,これはまるで説明になっていない。
 左半球は常に経験に基づいて因果関係を推測し,常に事象の意味を理解しようとしているようだ。ガザニガはこのモジュール(と呼ぶのが正確かどうかはわからないが)を「解釈者」と呼んでいる。分離能患者の例からわかるように,この解釈者はためらうことなく間違った原因や間違った理由を作り出して口にする。実際のところ,これを「嘘]と言っては言い過ぎになる——むしろ「自身を持って最善の推量をしている」のだ。この例からもわかるように,右半球でなにが起こっているのか知ることができなければ,その推量は単なる憶測になりかねない。だが非常に興味深いことに,健常な脳であっても常に正しく推測できるとは限らないのだ。

ブライアン・クリスチャン 吉田晋治(訳) (2012). 機械より人間らしくなれるか:AIとの対話が,人間でいることの意味を教えてくれる 草思社 pp.78-80
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