ちなみに以前自分が見せてもらった,ある企業が新卒採用のために作った「適性検査」は,まさしく「ただのアンケート」だった。ストレスに強くて根性がある人が欲しいんだろうなぁということだけはわかったが,それを直接尋ねたところで正直に「自分は根性ないです」と答える学生はいないだろう。実際にこの「適性検査」は,ほとんど採用の役には立たなかったそうだ。統計家としてはぜひ入社後の業績と,この「適性検査」の相関を分析させてほしいところである。おそらくこの企業は,1人ぐらい根性がなくても心理統計学を勉強してきた学生を人事部に採用したほうがよいのではないか。
社会調査や疫学研究の質問紙に「あなたの親しい人にタバコを吸っている人はいますか?」と書いていた場合,単純に「受動喫煙してる人って何%いるんだろうか」とか,「受動喫煙してるかどうかと健康状態って関連してるんだろうか」という興味で質問しているだけだが,心理統計家たちはそう単純には考えない。
質問に対する回答は必ず回答者の主観というフィルターと無関係ではないし,心理統計家たちは100年間,人間の主観を含む心の扱いについて議論を重ねてきたのだ。
「同じように喫煙者の友人がいる人の中にも,その存在を意識している人としていない人がいる」とか,「喫煙に嫌悪感のある人は,友人が喫煙者でも『親しい』という単語に引っかかってNoと答えるのではないか」といった可能性を考え,同様の質問項目を何パターンか用意し,因子分析を行ない,そこから得られた何らかの因子に対して意味を見出すべき,というのが彼らのやり方だろう。
西内 啓 (2013). 統計学が最強の学問である ダイヤモンド社 2480-2498/3361(kindle)
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