それまでは無批判に忌み嫌われておりましたようなものでございましても,蓋を開ければ何の科学的根拠もなかったとなりますれば,これは考え方を改めましょうと——普通ならこうなるはずでございましょう。
ところが現状はその逆なのでございますな。
まあ,この国も,文明開化,四民平等,近代化,民主主義化と,どんどん変わった訳でございます。最初にまず迷信が排除されましたな。で,身分やら階級やらの差も表向きはなくなりました。そうして,憑物筋という前近代の装置が徐々に機能しなくなって参ります。
それは,まあ仕方がない。
しかし,よくよく考えてみますってェと,迷信に科学が,身分やら階級やらに貧富の差やら学歴やらが取って代わりましただけのことでございまして,構造自体はそう代わり映えしていないのでございますな。結局,説明の体系やら解釈やらは大きく変わりましたものの,差別意識だの何だのというものはそのままの形で温存されておりましょう。
人間,そう進歩は致しませんな。
京極夏彦 (2010). 文庫版 豆腐小僧双六道中ふりだし 角川書店 pp.519-520
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