私たちの国は,高度成長のために「ムラ社会」としての一体感を守りながら,しかし一方では「自由競争」で「能力主義」的な上下の移動を可能しなければならず,国全体としても効率的で的確なエリート養成,社会的な選抜と人員配置を行わなければならなかった。
そのため絶対的な切り札が,「自由競争」としての大学受験制度だった。すべての人が参加でき,完全実力主義で競争できる。こうした形での「平等主義」と「能力主義」の両面の保証の上で,「ムラ社会」は運営されてきた。それがなければ,社会は活力を失い,高度成長は難しかっただろう。
入試においてだけは,絶対的「自由競争」行われたが,それは唯一,大学の入り口だけのことであり,それ以外は移動のない「ムラ社会」だ。それによって「ムラ社会」内部の一体感を守ったのだ。これが「競争しないための競争」の実体であり,日本の大学入試の核心部分だ。
中井浩一 (2007). 大学入試の戦後史:受験地獄から全入時代へ 中央公論新社 pp.252-253
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