それでは今度は,論理の問題を出題しよう。2つの前提と1つの結論を示すので,できるだけすばやく,論理的に成り立つかどうかを答えてほしい。2つの前提から最後の結論は導き出せるだろうか。
すべてのバラは花である。
一部の花はすぐにしおれる。
したがって,一部のバラはすぐにしおれる。
大学生の大部分が,この三段論法は成り立つと答える。しかし実際には成り立たない。すぐにしおれる花の中にバラが含まれないことはあり得るからだ。ほとんどの人の頭には,バットとボール問題の時と同じく,もっともらしい答がすぐに思い浮かぶ。これを打ち消すのは至難の業だ。というのも,「だってバラはすぐにしおれるじゃないか」という内なる声がしつこくまとわりついて,論理をチェックするのが難しくなるからだ。それに大半の人は,問題を深く考え抜くなどという面倒なことはしない。
この実験結果は,日常生活の推論に関してははなはだ残念な意味合いを持つ。たいていの人は,結論が正しいと感じると,それを導くに至ったと思われる論理も正しいと思い込む。たとえ実際には成り立たない論理であっても,である。つまりシステム1が絡んでいるときは,はじめに結論ありきで論理はそれに従うことになる。
ダニエル・カーネマン (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(上) 早川書房 pp.68-69
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