1980年代になると,ある単語に接したときには,その関連語が想起されやすくなるという明らかな変化が認められることがわかった。たとえば,「食べる」という単語を見たり聞いたりした後は,単語の穴埋め問題で“SO( )P”と出されたときに,SOAP(石けん)よりSOUP(スープ)と答える確率が高まる。言うまでもなく,この逆も起こりうる。たちえば「洗う」という単語を見た後は,SOAPと答える確率が高まる。これを「プライミング効果(priming effect)」と呼び,「食べる」はSOUPのプライム(先行刺激),「洗う」はSOAPのプライムであると言う。
プライミング効果は,さまざまな形をとる。たとえば,「食べる」という観念が頭の中にあるときは(それを意識するしないにかかわらず),「スープ」という単語が囁かれたり,かすれた字で書かれたりしていても,あなたはいつもより早くそれを認識する。もちろんスープだけでなく,食べ物に関連するさまざまなもの,たとえばフォーク,空腹,肥満,ダイエット,クッキーなども。最後に食事をしたときのレストランで椅子がぐらぐらしていたら,きっと「ぐらぐら」という言葉にも反応しやすくなるだろう。さらに,プライムで想起された観念は,効果は弱まるものの,別の観念のプライムになることもある。池に拡がるさざ波のように,連想活性化は広大な連想観念ネットワークの一カ所から始まって,拡がっていく。こうしたさざ波の分析は,今日の心理学研究において非常に興味深い分野と言えよう。
ダニエル・カーネマン (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(上) 早川書房 pp.78-79
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