プライミングに関する研究データは,国民に死を暗示すると,権威主義思想の訴求力が高まることを示唆している。死の恐怖を考えると,権威に頼るほうが安心できるからだ。また,無意識の連想において象徴と隠喩が果たす役割を指摘したのはフロイトだが,実験によってこの知見も確認されている。たとえば,「W( )( )H」と「S( )( )P」という虫食いの単語が並んでいるとしよう。この単語を完成させる実験で,直前に何か恥ずかしい行為を考えるように指示された被験者は,「WISH」と「SOUP」よりも「WASH」と「SOAP」を選ぶ確率が高くなる。それどころか,同僚の背中を突き刺すことを考えただけで,その人は電池,ジュース,チョコレートよりも,石けん,消毒液,洗剤を買いたくなる。これは,自分の魂が汚れたという感覚が,体をきれいにしたいという欲求につながるからだと考えられる。このような衝動は「レディ・マクベス効果」と呼ばれている。
洗うという行為は,罪を犯した身体の部分と密接に結びついている。ある実験では,被験者が架空の人物に電話またはメールで「嘘」をつくよう誘導される。その後に何が欲しくなるかを調べたところ,電話で嘘をついた被験者は石けんよりうがい薬を,メールで嘘をついた被験者はうがい薬より石鹸を選んだ。
ダニエル・カーネマン (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(上) 早川書房 pp.83-84
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