「もっともらしさ」を無批判に「起こりやすさ(確率)」に置き換える行為は,そのもっともらしいシナリオに基づいて予測をしようというときには致命的である。ではここで,2つのシナリオを考えてみよう。次のシナリオ1と2を別々のグループに提示し,確率を予測してもらった。
1 来年,北米のどこかで,死者数1000人以上の大規模な洪水が発生する。
2 来年,カリフォルニア州で地震が発生し,死者数1000人以上の大規模な洪水を引き起こす。
北米で大規模な洪水が起きるよりは,カリフォルニアで地震が起きるシナリオのほうがもっともらしい。ただし,後者の確率はまちがいなく低い。回答者は予想通り,確率理論に反して,よりくわしくて具体的なシナリオのほうが確率は高いと判断した。これは,予想する側にとっても,予想を依頼する側にとっても,1つの罠だといえる。くわしい情報を加味すればシナリオはもっともらしくなるが,起きる確率は下がってしまうのだから。
ダニエル・カーネマン (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(上) 早川書房 pp.234-235
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