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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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回帰に因果関係を

 回帰という概念が理解しがたいのは,システム1とシステム2の両方に原因がある。統計学を専門的に学んでいない人は言うまでもなく,ある程度学んだ人の相当数にとってさえ,相関と回帰の関係はどうもわかりにくい。システム2がこれを理解困難と感じるのは,のべつ因果関係で解釈したがるシステム1の習性のせいでもある。次の文章を読んでほしい。

 鬱状態に陥った子供たちの治療にエネルギー飲料を用いたところ,3カ月で症状が劇的に改善した。

 私はこの文章を新聞の見出しからこしらえたのだが,これは事実である。鬱状態の子供たちの治療として長期にわたってエネルギー飲料を与えたら,臨床的にみて症状は顕著な改善を示すだろう。しかしまた,子供たちが毎日逆立ちをしても,毎日20分猫を抱っこしても,やはり症状は改善するはずだ。こうしたニュースを知った読者は,エネルギー飲料や猫とのふれあいが功を奏したのだ,と自動的に推論するだろう。だがそのような推論はまったく正しくない。
 鬱になった子どもたちというのは,他の殆どの子供たちに比べてひどく元気のない極端な集団であって,このように極端な集団は,時間の経過とともに平均に回帰する。継続的な検査値に完全な相関が成立しないのであれば,必ず平均への回帰が起きる。鬱の子供たちは,猫を抱かなくても,エネルギー飲料を1本も飲まなくても,時間経過とともにある程度はよくなるのである。エネルギー飲料または他の治療法に効果があったと結論づけるためには,何の治療も受けていない「コントロール・グループ」という集団を設けなければならない(プラセボと呼ばれる偽薬の治療を受ける集団を設ければ,なおよい)。コントロール・グループは平均回帰によってのみ症状が改善すると考えられるので,治療がそれ以上に効果があるかどうかを確かめることができる。
 回帰現象にまちがった因果関係を当てはめるのは,一般紙の読者だけではない。統計学者のハワード・ウェイナーが調べたところ,たくさんの著名な研究者が,単なる相関関係を因果関係と取りちがえるという誤りを犯していた。回帰は,研究を邪魔する厄介物であり,経験豊富な研究者は十分な根拠のない因果的推論をしないよう,厳に戒めている。

ダニエル・カーネマン (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(上) 早川書房 pp.269-270
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