10の夢報告のそれぞれ場面ががらりと変わる部分で,ハサミで2つに切り離す。こうしてできた20片を再びつなぎ合わせる。このとき,半数はもとの報告どおりにつなぎ合わせ,残りは前と後ろが別々の人の夢報告からなる”ハイブリッド夢”に組み立てた。すなわちハイブリッド夢では,前後の内容の間に因果関係はないはずである。
この実験を行う前には私自身,たとえ夢の場面が変わっても,1つの夢に何らかの因果関係を見出せると思っていた。ところが実際には,どれがハイブリッド夢でどれが1つの夢なのかを区別できなかった。それも私だけではない。他のみんなもそうだったし,ベテランの臨床心理士でさえ,このように場面変化を伴う場合,ハイブリッド夢かどうかの区別がつかなかったのである。 じつに素朴な実験ながら,考えさせられるところが多い。
何事に対しても当然のように「こうなるには,こういう理由があるんだ。だからこうなんだ」と決めつけている。どんなことにも因果関係を探し出そうとするのが人間の心理なのだろう。それがあるからこそ私たちは生き延びてこられたのだろうし,科学も進歩してきたのである。
ただし,それによって誤ることもある。そして誤ったことに気づくよりも,気づかないことのほうが多いようである。
アラン・ホブソン(著) 冬樹純子(訳) (2003). 夢の科学 そのとき脳は何をしているのか? 講談社ブルーバックス p210-211
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