スイスの経営学教授フィリップ・ローゼンツヴァイクは,示唆に富む好著『ハロー効果(The Halo Effect)』の中で,ビジネス書を大きく2つのジャンルに分けている。第1は,経営者あるいは成功した企業とさほどでない企業を比較分析するタイプである。そのうえでローゼンツヴァイクは,(幻の)確実性にすがろうとする読者の期待に,2つのタイプのビジネス書がどう応えているかを調べた。そして,どちらのジャンルのビジネス書もリーダーの個性や経営手法が業績におよぼす影響をつねに誇張しており,したがってほとんど役に立たないと結論づけている。
なぜそういうことになるのだろうか。この事情を理解するには,ある会社のCEOの評判を経営の専門家(たとえば他社のCEO)に訊ねたらどんな答が返ってくるか,想像するとよい。彼らはその会社の最近の調子を抜け目なく把握していることだろう。だがグーグルのケースで見たように,こうした知識自体がハロー効果を生む。うまくいっている企業のCEOは,臨機応変で理念と決断力があるように見えるのである。しかし1年後にその企業が落ち目になっていたら,同じCEOが支離滅裂で頑固で独裁的だとこきおろされるにちがいない。どちらの評価も,その時点ではもっともだと思える。成功している企業のリーダーを頑固で支離滅裂だと言うのはばかげているだろうし,不振企業のリーダーを理念を決断力があるなどと言うのもおかしいからだ。
ダニエル・カーネマン (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(上) 早川書房 pp.300-301
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