以上の研究から,驚くべき結論が導かれる。すなわち,予測精度を最大限に高めるには,最終決定を計算式にまかせるほうがよい,ということだ。とりわけ,予測可能性が低い環境についてそう言える。たとえばメディカルスクールの入学試験では,教授陣が受験生と面接した後に合議により最終合格者を決める方式が多い。まだ断片的なデータしか集まっていないが,次のことは確実に言える。面接を実施して面接官が最終決定を下すやり方は,選抜の精度を下げる可能性が高いということである。というのも面接官は自分の直感に過剰な自信を持ち,印象を過大に重視してその他の情報を不当に軽視し,その結果として予測の妥当性を押し下げるからだ。同じように,まだ熟成がすんでいないワインから将来の品質を予測する専門家は,確実に予測精度を下げる情報源に頼っている。それは,ワインの試飲である。もちろん専門家なのだから天候がワインの品質におよぼす影響はよくわかっているだろうけれども,試飲してしまったあとでは,計算式のように首尾一貫して天候を考慮することはできない。
ダニエル・カーネマン (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(上) 早川書房 pp.326-327
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